中二階/休息寸劇

◇         ◇         ◇

 白い雪の降り積もる冬の夜の街。
 公園のベンチに座って檀を待つ俺に話しかける女性。

「よう、いるとは思ってたんだ、何となく」
「今晩は、円城先輩」

「しかしうちの妹がお前さんと恋仲になるとはね………あれだけ騙された女と一緒になろうというお前もお前だよ。アレは姉の俺から見ても怖い女だぜ、せいぜい振り回されないように気をつけろよ」
「何を言ってるんですか、既に振り回されてますよ」
「はは、違いない」
 言って、軽く笑い合う。お互い何となく自嘲気味になっているのか、その笑い声からは純粋な愉快さは感じられない。
 と、彼女が口を開く。
「三宮。お前、今の自分に満足か」
 俺は何の躊躇もなく、
「ええ、満足ですよ」
 と答えた。
 女性はその言葉に納得出来ないのか、さらに食い下がる。
「まさかお前、檀がいれば何もいらないとか幼稚な言葉を吐くつもりじゃないだろうな。そうだとしたら器が知れるぞ。俺は真面目に言ってるんだ。お前が心の底から何一つとして不足なく満足に過ごしているのかどうかと聞いているんだ。
 さあ、三宮。お前は今の自分に満足なのか」
 再び同じ問いをする女性。とは言え、
「ええ、俺は真面目に満足だと言っているんです」
 俺自身自分に嘘をつけない性格である以上、満足なものを満足と言う以外あり得ない。女性はそれで俺の本気を知って、理解に苦しむように言った。
「何故だ。この世界には色々なものがある。もちろん価値あるモノもないモノも、この世界そのものだってあるんだ。そんな中で何もいらない、満足だなんていうのは俺の考えとはかけ離れている」
「もしかして円城先輩って、自分の考え以外認めない人ですか?」
「まさか。これは違う考え方に対する興味みたいなもんだよ」
「………そうですね。俺が満足な理由は、まず間違いなく檀でしょう。ですがそれは、檀がいれば満足なんて安っぽい独占欲じゃありません。世界は既に個人個人のものであり、存在自体不確定なものであると教えてくれたのが檀なんですよ。
 だから、何もかも不確定なら殊更何かを欲するのも馬鹿馬鹿しいかなって………」
「それでか。………うん、妹がお前を好きになったのも何となく理解出来る。お前はもともとの自分の思考回路を維持しつつ自分というモノを取り戻したんだな。うん、俺にも分かる。お前はいい男だ。檀のものにしておくのはもったいない」
「そう思うのは勝手ですけど、面倒事には巻き込まないで下さいよ?」
「………もう少しユーモアがあったほうがいいかもな。
 まあいいよ。とにかく妹をこれからも宜しくな」
 女性は足音を立ててその場から立ち去った。後に残るのは、深々と降り続く雪の中で檀を待つ俺一人。
 静かで暗く白い風景は、色彩を失った映画のワンシーンを髣髴とさせる。歩き続けなければならない銑鉄回廊の中で、何故か数秒立ち止まったような錯覚。
 その錯覚を破ったのは、俺の名前を呼ぶ檀の声だった。



 数少ない休息の中で、人は寸劇を通じて真実を垣間見る。
 そして銑鉄回廊は、その存在を未来永劫静かに証明する―――



<中二階/休息寸劇・了>